会社社長の財産分与の注意点 経営者の財産分与は何が違う?

財産分与で揉めやすい?注意するポイント

夫婦が離婚する時には、①婚姻後、夫婦それぞれが財産形成にどれだけ寄与したかを考慮しながら、②婚姻後に形成された財産を、③実質的に公平になるように分配する必要がある、と考えられています。これが、(清算的)財産分与と呼ばれるものです。
この財産分与を、どちらかが経営者であるご夫婦が行う場合、上記①②③それぞれにおいて特有の問題が生じ、揉めやすいポイントになってきます。
以下、それぞれについて解説します。

会社経営者との離婚での財産分与の割合は?

夫婦それぞれが財産形成にどれだけ寄与したか?の問題です。これについては現在、「2分の1ルール」、つまり夫婦平等とみなすルールが定着しています。どちらかが専業主婦/主夫であれ、家事労働があってこその財産形成ですから、この割合は変わりません。
もっとも、財産形成が個人の特殊な能力や才能によってなされ、しかもその財産が高額に上る場合には、この理屈は当てはまらないと言えます。そのため、会社経営者が当事者の場合も含め、この要件に該当する場合、2分の1ルールが修正されることがあります。
ただし、これはあくまで、裁判所から見ても特殊な能力等と評価できる場合に限られます。経営者の場合は常に修正が問題になるかのような記事は事実と異なりますので、留意してください。

財産分与で対象になるものは?

事業用財産との区別

財産分与の対象は、夫婦が婚姻中に共同で形成した財産です。したがって、そもそも夫婦どちらの財産でもないものや、婚姻以前から一方が所有していた財産は、分与の対象になりません。
ここの区別が、特に家族経営のような実態の会社の場合、非常に難しい点になります。つまり、通常なら、不動産なら登記名義、預金なら口座名義によってそれが誰の財産かを区別することになるでしょうが、家族経営的な会社の場合、個人名義の口座で会社の資産を管理していることもままありますし、会社名義の財産だろうが、実質的には夫婦共同で築き上げた財産であるということもあります。このように、名義が区別の基準として必ずしも機能しないため、財産形成の実態をめぐって争われるケースがよくあります。
ここは、それぞれの事案特有の個別事情を踏まえつつ、現実的な範囲で最大限有利な主張をしていく他ありません。

自社株式

オーナー企業の場合、経営者自ら自社株式を保有しています。また、配偶者の方も役員かつ株主であることもよくあります。したがって、これらも財産分与の対象として含めて考えることになります。
ただし、株式も、それが「夫婦で共同で形成した」と言える場合に分与の対象になるものです。したがって、例えば、夫婦の片方が婚姻前に親から引き継いだ株式(価値)は、対象から外れることになるでしょう。
なお、対象財産の確定とは別の話になりますが、非公開株式の価値の算定・評価も、場合によっては揉めるポイントになります。

退職金

退職金には、給与や報酬の後払い的な性格があります。したがって、実際に退職金を受け取る前に離婚する場合であっても、財産分与の対象に含まれ得ると考えられています。これは、経営者であっても同様です。
経営者が給与所得者と事実上違うのは、会社によっては、実際に支払われる可能性が低いことや、そもそも退職金の支払が想定されていないことがあり得る点で、そのような場合、財産分与対象から外れざるを得ません。後者については、会社に役員の退職金規程があるかどうかも重要ですが、それがなくても、事実上、退職金の準備のために一定額を積み立てているケースもあります。具体的には、小規模企業共済や保険を活用して損金算入などのメリットを享受していることが多いでしょう。
財産分与を請求する際には、以上を踏まえて、忘れずに、退職金の分与を求めるかを検討するようにしましょう。

その他

通常、動産は実用的なものがほとんどで時価評価額は低廉にならざるを得ず、あまり、財産分与で揉めるポイントにはなりません。ただ、会社経営者の場合、そうではない高価な美術品や貴金属などを所有している場合も多いでしょう。
また、趣味兼人脈形成・維持のため、ゴルフ会員権を持っている場合もあります。
したがって、これらも漏れなく分与請求対象に含め、適切に評価してもらう必要があります。

財産分与方法をどのようにするかも重要です

財産分与の対象財産を特定、評価し、分与割合も確定したら、最後は、財産をどうやって分けるかを決めます。通常ですと、不動産などの換価が容易でないものをどうするかが問題になります。
会社経営者の場合、それに加えて重要なのが、自社株式の分け方です。株式は、単純な財産ではなく会社の株主である資格そのものですから、夫婦がともに会社株式を所有しているままだと、関係がこじれた相手も会社の意思決定に参画できる状態が続いてしまい、夫婦だけの問題ではなくなってしまいます。
特に非公開株式の場合、前述のとおり、確かに、額の評価が難しいところです。しかし、この点は面倒くさがらず、きちんと一方が買い取る形で話をまとめたいところです。

まとめ

以上のように、会社経営者の財産分与では、複雑な問題が生じがちです。また、財産分与以外でも、例えば養育費や婚姻費用を取り決めるに当たり、収入が算定表の上限を超えているため算定表が使えないことなどもあり得ます。
お悩みの点があるときは、ぜひ、専門家にご相談ください。



監修者:弁護士法人西村綜合法律事務所 代表弁護士 西村啓聡
[経歴]
東京大学卒業
第2東京弁護士会登録、岡山弁護士会登録

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